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一太郎・花子の松下特許侵害事件について

 
(この文書は一太郎2004で作成しております)
 
 いい加減そろそろLinux版一太郎のインストールをしないといかんなあ、明日辺りやろうか、と思っていた矢先に、こんなニュースである。
 
 特許訴訟:一太郎・花子の製造販売中止命令 松下電器勝訴(msn毎日)
 
 一太郎・花子の持っている機能のうち、
「ヘルプアイコンをクリックしてから、別のアイコンをクリックすると、その別のアイコンに関するヘルプがポップアップ表示される」
という機能が、松下の持つ
「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と、前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と、前記指定手段による、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置。」(特許公報より抜粋)
という特許に抵触する、ということのようだ。
 松下の持つ特許に関しては、工業所有権情報・研修館の特許・実用新案公報DBで、
文献種別:B
文献番号:2803236
にて、検索していただきたい。(直リンクできない構造になっているため)
 
 もう少し詳しく解説すると。松下の持っている特許というのは、
1.説明用のアイコンが、まずある(「アイコン1」とする)。
2.印刷したり線引きモードにしたりといった、普通のアイコンがある(アイコン2)
3.アイコン1を操作する。
4.続いて、アイコン2を操作する。
5.(あらかじめ用意された)アイコン2の機能に関する説明が出てくる。
という一連の流れを実現する機能、についてのものである。
 これが、一太郎・花子の、次の機能に該当する、というのが松下の主張並びに今回の判決になる。
(画像は花子2004)

 
1.ヘルプアイコンをクリック
 
2.(マウスポインタの絵柄が変わったところで)アイコンなどをクリック
 
3.アイコンに関する説明が出てくる。
 
 というものである。
 ちなみにこの機能、一太郎7から実装されていたものらしいが。当時からずーっと使い続けてきた荒野草途伸は、こんな機能一度も使ったことがない。言われて初めて、「ああそんな機能あったっけか」と気づくような、そんなシロモノである。
 
 
 ちなみに、アイコンの説明を出す方法はこれ以外にもう一つ、
1.(何の前操作もなく)アイコンにマウスポインタを近づける
 
2.アイコンに関する説明ウィンドゥが出てくる
 
というのがあるが。操作手順が違うので、これに関しては特許適用の対象にはならないだろう。
 
 
 正直な話、松下の特許というのは曖昧な内容に感じる。発想としては極めて単純だが、応用性が極めて高く、非常に強力な特許といえる。
 元々これは、特定のハードウェア(ワープロ専用機)の上で実現される機能、に関する特許であり、Windowsだとか、そういうソフトウェア上で実現される統合操作環境を前提にしたものではない。そもそも、この特許が出願・認定された1989〜90年頃というのは、ソフトウェア特許というものがまだ認められておらず、「ソフトはハードの一部である」という前提で特許が認められていた時代だ。だからこそ、これも特許として認められたのであろう。
 にも関わらず、出願内容の請求項だけを見ると、ハードウェア関係無しに、あらゆる場面で特許が成立するように見えてしまう。今の時代に、ソフトウェア特許としてこんなものを出願したって、到底認められるとは思えない。まさに、制度の盲点をついた特許だと言える。
 
 今回の松下の特許自体は、2009年10月31日で消滅する。だが、この事件をきっかけに、萎縮してしまうソフト開発者やメーカーは多いのでは、と思う。
 ハードも手がけている総合メーカーやその系列ならいざ知らず、ソフト専業でやってきた会社なんて今まで特許という制度そのものになじみがなかったわけで、当然今までどんなものが特許になっているかなんて事は、いちいちチェックしていないし、これからやろうと思ったって出来るものではない。取れる道としては、侵害のリスクを覚悟で開発を進めるか、侵害を恐れて新規の技術開発を止めるか、しかないと思う。ソフト産業全体にとって見て、決して良いことではない。
 特許制度の本来の目的は「広く産業の発展に寄与する」事である。にも関わらずこれが逆方向に作用してしまうようでは、問題だろう。「特許制度そのものをなくせ」という声が上がっても不思議ではない(現に、そういう声は上がっている)。
 
 発明者の保護という観点から、ソフトウェア分野でも特許制度は必要だとは思う(オープンソースとか、そういうものはあくまで思想であり、参加するしないは開発者個人の意志に委ねられるべきだ)。
 だが、今回のように権利を濫用されても困るし、開発者が何が特許になってるかを簡単に知ることが出来ないようでも困る(特許データベースは、情報処理分野の分類が未整備であり、検索が非常にやりづらい)。また、日進月歩のソフト業界において、20年という長い特許付与期間が果たして妥当であるか。
 いろいろと、解決しなければいけない問題は多いと思う。



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