何故、北方領土、正確には南千島諸島の返還に反対なのか。
右翼連中が「北方領土返還」をお題目のように唱えるから、それもある。しかしそれ以上に、過去に持っていたものを取り返すという後ろ向きな発想が気にくわなかったし、ムネオが言うように国益に反するという部分もあったからだ。


 南千島が日本固有の領土であるという主張は、一理あるとは思う。千島列島全部が日本固有の領土だとする共産党の主張も、まあそれなりに頷ける。が。少し冷静になって考えてみよう。あの島が日本の領土であることに、どれほどのメリットがあるだろうか。
 確かに、カニは捕れる。根室市の目と鼻の先をロシアの軍艦がうろつくことも無くなる。
 だがしかし。カニなんて、どうせ長年の乱獲で数が減ってしまって、日本領に戻ってもすぐに保護規制をかけないといけないような状態だろう。つまり、どうせ捕れないのだ。
 軍艦に関して言えば、これは単にうろつく場所が根室沖から択捉沖に変わるだけである。だいたい、異国の軍艦がうろついている場所など、何も根室沖だけでは無いではないか。それこそ日本中の都市という都市の沖合を、アメリカ海軍の巡洋艦が核ミサイル積んでうろつき回っているのだ。こっちの方がよっぽど深刻な問題である。
 要約すると、南千島が日本領になるメリットは、無いことはないが大したこともない、ということになる。
 

 今度は、デメリットについて考えてみよう。一番のネックは、島民の問題である。ここで言う島民とは、50年前だかなんだかにあの島々に住んでいた地権者達のことではない。今現在、あの島で生活を営んでいるロシア人のことである。もし南千島が日本領になったとき、彼らの扱いをどうするのか。サハリンやモスクワにでも行けというのか。

 右翼連中は、そう言うだろう。ここは日本だから、ロシア人は出ていけ、と。しかし、そこではいそうですかと彼らが逃げ帰るだろうか。もしそうなると考えているなら、とんでもない日和見主義である。
 おそらくは、島民の中には居残り、日本の支配に抵抗するため、武器を手にするものが出るだろう。まさか武器を手にして大道芸をやるわけでもあるまい。南千島が極東のパレスチナと化すのだ。しかも、彼らが後ろ盾とするのは、シリアやイラクなどではない、軍事大国ロシアである。アメリカの支援抜きに戦うことは不可能な相手である。
 ではアメリカに支援を求めればいい、それは甘い。建前だけでも民主主義の守護者を自任するあの国が、罪無き島民を叩き出すような真似をした国に手をさしのべたりするだろうか。おそらくは、正義に敏感なアメリカ世論が許さないだろう。逆に彼らに、かつての侵略国家日本のイメージを思い起こさせ、「リメンバーパールハーバー」と叫ばせてしまうのがオチである。
 
 では、島民を残すという選択肢は。彼らに永住外国人の地位を与えて、島にとどめることを認めるのか。だが、永住外国人とは、聞こえはいいが要するに選挙権も憲法による人権保障もない、一種の二等国民である。そんな地位を、彼らが知ってて望むだろうか。
 では、彼らに日本国籍を与えてしまう、という選択肢は。これも非常に難しい。何故ならこの国の人間は、日本国籍を持つという意味の日本人と、文化的・自我同一性としての日本人の違いを区別出来ていないからだ。在日に住民投票の投票権を認めただけで感情的になるバカが多い、日本とアイヌ・沖縄の歴史は違うということもわかっていない。そんなこの国で、ロシア人として育った彼らに日本国籍を与えれば、必ずやこの国の人間は、彼らに日本の文化や伝統を強要するだろう。島民はそれに反発し、やがては独立運動へと発展するかもしれない。せっかく取り戻した島も、結局日本のもので無くなってしまうのである。
 
 
 損得勘定抜きの民族意識も、楽しいものならいいだろう。オリンピックもサッカートイレ(WC)も、大いに楽しめばよい。だがこれが、我々の利益ひいては命にまで関わるようなことになるとすれば、話は全く違う。とかく日本人は、感情に突っ走って物事を理性的に判断することを拒絶する傾向があるが、そろそろ論理的・理性的に国益や社会の発展といったものを考えるようにしてはどうだろうか。
 
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