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バグ取りじいさん

 
 むかしむかしあるところに、フリーなプログラマーのおじいさんがいました。仕事はあまり来ませんでしたが、それでも何とか慎ましく暮らしておりました。
 そんなある日、発注元から成果物を突き返されてしまいました。
「おかしい。仕様と違う。3日以内に直せ」
 そんなはずは無い、仕様書通りに作ったはずだとおじいさんは訴えましたが、聞く耳持ってくれません。仕様書を読み返すと、曖昧でどちらとも取れる内容でした。本来そんな仕様書を書く方が間違っているのですが、そこは受注側の悲しい性。おじいさんはちゃんと確認しなかったから悪いんだと自分に言い聞かせて、修正にかかりました。
 しかしどうにもうまくいきません。やっぱり仕様がおかしいのか、それとも自分の知識が足らないのか。散々悩んだあげく、おじいさんはネット世界に逃避してしまいました。するとある洞窟で、鬼達が祭をやっておりました。
「MSブラストパイルダーオン済」
「exeだけじゃなくソースも欲しいと言ったらコーミソース送られたんだけどどうしたらいいですか?」
「CLANNAD発売キター!」
 何を言ってるのかよくわかりませんが、どうやらソフト開発に詳しい人、否、鬼達のようです。おじいさんは藁にもすがる思いでそこに入り込み、窮状を訴えました。
「まずMSDNを読め。話はそれからだ」
「仕様は間違っていないよ、ただこれだけでは君みたいな素人さんに見せるには不親切な内容だけどね」
「どうでもいいことなんだけど、この仕事終わったらAIR、やらないか?」
 鬼達はおじいさんを散々罵倒し、時に全く関係のない電波話を交えつつも、解決への道筋を提示してくれました。そして朝が来る頃には、おじいさんのプログラムはすっかり綺麗なものになっていました。その代わり、散々罵倒されたおじいさんの精神はボロボロでした。
「すっかり徹夜になってしまったな、今日は午後出社にしよう」
「わからなくなったらまた来いよ」
「年末にお時間取れませんか?」
 そう言って鬼達はおじいさんを送り出してくれました。おじいさんは二度と来るかと思いながらも、非常にすっきりした気分で納品することが出来ました。
 
 数日後、おじいさんはこの事を隣に住んでいるやはりフリープログラマーなおじいさんに話しました。それを聞いた隣のおじいさんは、自分が抱えている難題もそこで解決して貰おうと思いました。ただ、一問一答でいちいち罵倒されるのもいやなので、仕様書と作りかけのプログラムを全部アップロードし、さらに何十項目もの質問事項を一気にべったりと貼り付けて、回答を求めたのでした。
 これには、さすがの鬼達も絶句しました。
「変数名がnagiですね。」
 という一言が返ってきただけでした。隣のおじいさんは3時間程粘ってみましたが、答えがないので、結局あきらめて自分で適当に答えを出して作って納品してしまいました。
 
 ところが、これだけでは終わりませんでした。翌日、隣のおじいさんの元に発注元から電話がありました。
「そっちに出したプログラムの件で、匿名のクレームが来てるんだけど。まさか、内容、外に漏らしたんじゃないだろうね?!」
 それは、鬼達の仕業でした。隣のおじいさんの非常識な行動に怒った鬼達が、仕様書に記載してあった社名を元に、会社に抗議の電話やメールを送っていたのです。隣のおじいさんは必死で言い訳しましたが、発注元の怒りは収まりません。
 
 結局隣のおじいさんは、報酬を払ってもらえなかったばかりか損害賠償まで請求され、信用も失って仕事が回ってこなくなり、生活保護を受ける身になってしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
 
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