5.
笛の音は一瞬だった。鳴りやんだ後の沈黙が、むしろ長く感じられた。そして言葉は、ずっと無い。目の前の少女は手に笛を持ったまま、荒く息をしていた。傍らの毬音は、手を組んだまま、しかし目は開いている。視線は、少女の方に。そして毬音の膝が崩れた。
「毬音・・・?!」
毬音の左手が地に着き、体の全てが崩れ落ちるのは避けられた。しかし、その支えも心許ない。僕は反射的に跪き、毬音の左肩を両手で支えた。
「大丈夫・・・?」
「ええ、なんとか。」
振り返り、笑って答える毬音。だが薄明かりの中に見えるその顔は、ひきつり、蒼白に見えた。あの笛がそうさせたのだろうか。いやそんなはずはない、たかが笛ごときで。そう思いつつも僕は、笛を吹いた少女を睨みつけてしまっていた。ずっとこちらを見ていた少女はすぐにそれに気づき、きっとこちらをにらみ返してくる。
再び沈黙。聞こえるのはただ、足音風の音。風の音は変わらない。そして足音は次第にはっきりしてくる。光が3人を照らした。
「馬場!」
光の照らし出される方向から、そう呼ぶ声が聞こえた。懐中電灯を持った女がそこにいた。その後ろに、男女取り混ぜて5人ほど。ああ、学園警備隊だ。直感ですぐにわかった。
懐中電灯を持った女は、馬場と呼ばれた少女から目を離し、僕たち二人を凝視する。そして、つかつかと歩み寄ってきた。
「その方は、体調を崩しているのですか?」
「あ、ああ。そうみたいだ。」
「ここは意外と冷えます。移動した方がよいでしょう。――立てますか?」
ええと毬音が返事をし、立ち上がろうとする。だがその足取りは、おぼつかずとても危なっかしい感じがした。僕は反射的に手を伸ばし、一瞬ためらい、そして背中を支えた。
「そうですね。あなた、ついていてあげてください。少し歩きますから。」
僕は動かなかった。毬音の両肩を支えたまま、怪訝な顔で女の顔を見返していた。それを見て女は、少し困ったような表情になった。
「警戒なさる気持ちもわかりますが。今はそちらの方の体調が最優先かと存じますが?」
僕が答えないのを見て、女はさらに続けた。
「あなた達を詰問しようとか、そういうつもりではないんです。救護活動も私たちの仕事ですから。」
そう言って女は促すような視線をよこし、そして馬場と呼ばれた少女の元に歩いていった。
「馬場さん、あなたも一緒に戻りましょう。いいわね?」
「はい・・・」
そして女は歩き出した。少女は何か言いたげではあったが、しかしそれ以上口を開く事はなく、黙って女の後に付いていった。女は振り返り、僕たちがついてきているのを確認してから、問いかけてきた。
「そうそう、まだ名前を聞いていなかったわね。私は中橋恵子。学園警備隊の長官を務めさせてもらっているわ。」
長官。そうかこの人が、学園警備隊の総元締めか。そう思うと、意識せずとも身震いが走り、引き締まる感じがした。
「僕は、井塚響助。こちらは、野口毬音です。」
「井塚響助・・・総合自然2年の、井塚響助君であってるのかしら?」
「はい、そうですけど。」
思わず警戒した声になる。何故すぐにそんな事がわかるのだろう。僕はそんなに有名人だっただろうか。
「そう、あなたが。あなたの事は紺田君からよく聞いてるわ。」
「紺田から・・・?」
「ええ。あなたと同じ学科でしょう?」
「不本意ながら。」
そう答えつつ僕は、会話の中に引っかかるものを感じずにはいられなかった。
「紺田って・・・もしかして、学園警備隊なんですか?」
「そうよ。あら。知らなかったのかしら?」
「初耳です。」
「そうなの。しょうがないわね、大親友なのにそんな事も話さないなんて。」
「大親友じゃないです!」
思わず出した大きな声に、同行していた学園警備隊の全員がこちらを向き、そしてもたれかかって歩いていた毬音がくすりと笑った。中橋長官が立ち止まり、結果、僕の隣、毬音と反対の側に位置する事になる。
「紺田君、いい子よ? それは、変わり者・・・と言うより、異端児だけど。」
紺田は学園警備隊の中でまで異端児を通しているのか。そう思うと僕は、苦笑を隠せなかった。
「宮前君、今日は紺田君は非番だったかしら?」
「非番だから非常識な事をするんだとかほざいてました。」
「困った子ね・・・。」
再び、僕たち二人と並んで歩き始めていた中橋長官は、UGCと銘打たれたv6携帯を取り出し、話し始めた。
「もしもし、紺田君? 中橋ですけど。ええお疲れ様。・・・いいえ、寂しくなった時はあなた以外の誰かに電話するわ。・・・電話代の問題じゃないの。用件はそんな事じゃないのよ。・・・ちょっと黙っててね。あのね、さっき真泉の森であなたの大親友を保護したんだけど・・・そう、井塚響助君。それと、彼女さんかしら、野口毬音さんという人も一緒で、彼女体調悪いみたいだから、これから本部に連れて行って介抱するつもりなんだけど・・・そう、来るのね。・・・別に36秒でも37秒でもいいわよ。・・・うん、じゃあ本部で。」
そう言って中橋長官は通話を切った。僕はずっと、横で黙って聞いていた。途中の、野口毬音は彼女さんという下りに陶酔し、しばらくそれに浸ったままでいた。そしてはたと気づいた。これから向かう場所には奴が来る。奴が来る。
「すみません、僕たちやっぱり・・・」
そこまで言って、傍らの毬音の顔を見た。何となく、彼女を他の男と会わせたくはなかった。毬音は何かしらとでも言いたげにこちらを見返してきた。ただしそれは寄り添ったままの下の方から、いつものような同じ高さの目線ではなく。そう、さっきあんな事があったばかりだ。そんなに深刻と言うほどではないだろうが、しかしやっぱり休ませた方がいいのだろう。
「なにかしら?」
「いえ、なんでもないです。すみません。」
「そう。」
そしてそのまま、僕たちはサークル棟の方向に向かっていった。
コンクリート造りの建物に、プレハブ棟が2棟。学園警備隊の本部は、そのうちの奥のプレハブ棟の1階にあった。中には、二人の学生がいた。
「おつかれさまです」
「留守番ご苦労様。」
そのやりとりを聞いて、ああ待機してた人か、と思った。
「具合が悪い人がいるの。仮眠室、開けておいてくれるかしら」
「・・・いえ、椅子で十分ですから。」
今まで何も言わなかった毬音がようやく発言した。それだけ調子が戻ってきたという事だろうかと、僕は安堵した。毬音は最も手近にあった椅子を引き、そこに腰掛けた。
「あなたも座って。」
そう言って中橋長官が、毬音の向こう側にある椅子を引いて勧めてきた。
「いえ僕は大丈夫ですから。」
「立たれたままでは話しづらいわ。上官と部下じゃないんだし、かと言ってそんなに気さくな友達というわけでも、まだ無いもの。座って。」
そう言って中橋長官は、椅子を引いたままにしてテーブルの向こう側に回り、引いた椅子の向こう側で腰掛けた。
「馬場さんもそこに座って。あなた達は、いつも通りにしておいてくれればいいわ。」
そう言われて、馬場と呼ばれた少女は引かれた椅子のさらに向こう側に座り、他の人たちは部屋の中で動き回ったり畳になった部分で休息をとったりし始めた。僕は、毬音と馬場に挟まれた格好で座る事になった。
「さて。馬場さん、あなた巡視中にはぐれるの3度目よね?」
「はい・・・」
気丈な顔に、動揺の色が浮かんだ。
「どうしてなのかしら・・・?」
「・・・。」
「・・・・。」
沈黙。意志の流れが停滞する。ふと何とはなく振り返ると、毬音の何かを迷っているような表情が見えた。右へ、左へ。視線が泳ぐ。
「理由もなくこんなによくはぐれるようなら、巡視班からはずさないといけなくなるけど。事故があるといけないし・・・・」
その言葉に、馬場ははっとしたように顔を上げた。口元が微妙に動く。言うべきかどうか迷っているようだ、僕はそう思った。毬音の目が、いつの間にか閉じていた。
僕は、何気なく窓を見た。風が吹き込んだような気がした。それは少しだけ開いていた。「え」という声に視線を戻すと、中橋長官が低く右手を振っていた。
「ううん、ごめんなさい。なんでもないの。」
そして何かを考え込んでいるような仕草が見えた。
「もしかして――誰かに会うつもりだったのかしら?」
今度は馬場の、「え」という声。そして数秒の後、馬場が答える。
「そ、そうです。人と会うつもりでした。男の子です。」
元々根が真っ正直なのかもしれない、別に言わなくていい事まで答えていた。
「知れると詰問されるかもしれないと思って・・・すみませんでした。」
「別に、そういうプライベートな事で詰問する気はないんだけどね・・・」
中橋長官は苦笑しながらそう言い、そしてうーんとうなりながら考え込んでしまった。
「でも勝手に班抜け出してるわけだから、それはプライベートじゃなくなるのかなあ・・・?」
僕は何も返答できず、ただ愛想笑いをするしかできなかった。毬音は、馬場の顔を見て、何かを真剣に考えているようだった。それが何かは、今の僕にはわからなかった。
「お茶どうぞ。」
そう声がして、湯飲みが目の前に置かれる。見上げると、先程宮前と呼ばれた男が微笑んでいた。
「あ、これはどうも。」
そう返答して、湯飲みをとった。飲むと、なんだか微妙な味がした。
「木いちご茶です。」
宮前氏は、微笑みを崩さぬままそう言った。僕は結局愛想笑いをするしかなかった。
扉が、開く。
「やあ諸君、お待たせして申し訳なかったね。お詫びに歌を歌えというなら歌ってもよいが、どうするかね?」
紺田は、入ってきた早々やかましい台詞を部屋中にまき散らしていた。毬音の愛想笑いは苦笑いに変わり、僕の顔からは笑いそのものが消えた。
「おお、そこにいるのは我が大親友の井塚響助。兄はお前の事が心配で、風呂にも入らずにすっ飛んできたぞ。」
誰が兄か。風呂ぐらい勝手に入れ。そう突っ込みたくなるのを僕は必死でこらえ、目を合わさないようにしていた。
「それとそこにいるのは、認知の野口毬音さんではないか。ふむ、そういう事か・・・」
「!」
紺田が毬音の事を知っている。その事実に驚いて、思わず背けていた顔を上げていた。紺田は顎に右手を当てて、部屋中を見渡していた。
「・・・はて、古瀬智羽の姿が見あたらないが?」
「「あ」」
二人の声が重なった。僕と、毬音と。
「古瀬さんが、どうかしたの?」
中橋長官が引きつった笑い顔で訊いてきた。
「彼女は、今夜はここにいる二人と行動を共にしている、そういう予定だと聞き及んでいたのだが」
「そうなの?」
「ええ、そうです。今日、会う約束をしてたんです。」
「私が呼び出してたんです。」
「そう・・・」
中橋長官の表情は、引きつった笑顔のままだった。
「私はてっきり、古瀬智羽対策のために呼ばれたのかと思っていたのだが」
「そういうことではないのよ、ごめんなさい。」
「ふむ・・・では私が今ここにいる、その存在理由は一体なんだ・・・」
紺田は腕組みをして考え込みだした。
「君は親友の事が心配で駆けつけてきたのではなかったのかな?」
「おおう、全く以てその通りでござまする。ただ一つ訂正させてもらえば、響助君は親友ではなく大親友ですがね。」
そう言って紺田は宮前氏ににやりと笑いかけ、僕は余計な事を言ってくれるなと宮前氏を睨みつけていた。宮前氏はずっと笑顔が崩れないままだった。
「で。」
紺田が話を振ってきた。
「すると何かね君たちは。仮にもうら若き女性である古瀬智羽に対して、今夜会う約束をして夜の森に誘い出した呼び出したにも関わらず、そこに行かずに放置していると。そういうわけだな。」
「いや、そういうつもりじゃ。大体、そもそもはあんたらの所為でこうなったんだろ」
そう言って僕は、その原因たる馬場を睨みつけた。馬場も睨み返してきた。あくまで気が強いままのようだった。
「馬場がこの二人とトラブルを起こして、その間にそちらの野口さんが気分を悪くされたので、ここに連れてきたのよ。人と会う約束があったなんて知らなかったの。」
そう中橋長官が取りなしてくれた。
「成る程そういう事か。」
紺田は並んで座っている3人を見渡し、馬場を見て、珍しくため息をついた。
「仕方ないな・・・。そういうことなら、この紺田洋介が特別に君たちのために古瀬に対する弁護をしてやろう。」
そう言って紺田は、ポケットからv6携帯を取り出した。見慣れた紺田オリジナルの逸品、括弧自称、だった。指で数操作して、紺田はそれを耳に押し当てる。
「ああ、紺田だがね。おそらく君が探しているであろう二人について報告しようと思ったのだよ。いやなに心配する事はない、私の目の届くところでしっかり保護されているからな。・・・いや、特に心配するような事はないぞ。それどころか、この二人は君の事などすっかり忘れてラブラブモード全開だ。・・・ああ、今はとある場所で二人並んで座っているのだが。それでもって二人して声ぴったり息ぴったりのところを見せつけてくれたりしているぞ。」
「ちょっと待て」
言ってる内容自体は確かに事実だ。だが、そんな言い方では無用な誤解を植え付けているようなものではないか。
「うん、うん。いや、君の怒りはもっともだ、しっかり二人に伝えておくよ。・・・いや、ここはきちんと怒るべきだと思うぞ。・・・いや、場所は教えられないな、組織防衛上の機密という奴だ。・・・はっはっは、それはどこのことかな・・・君の思考力は実は私は密かに尊敬していたりするが、今はそれに肯定も否定も出来ないよ・・・そんなに自分を卑下する事もあるまい・・・はっはっは、そんなに褒めるなよ、照れるぜ」
「・・・・。」
論点がどんどんずれている、端から聞いていてもそんな気がした。少なくとももはや弁護などではない。それは僕にとってはある程度予想していた事ではあり、ただ呆れ故のため息をつくばかりであった。毬音はと言うと、呆然とした様子で紺田の方を見ていた。
「ごめん、ああいう奴だから」
僕に出来るフォローはそれくらいだった。毬音は曖昧な笑いを返してきた。
「・・・うん、そうか。では野口さんに代わろうか」
紺田はそう通話口に言い、そして電話機を毬音に渡してきた。毬音はありがとうございますと言ってそれを受け取った。
「ごめんね智羽、ちょっと、――気分が悪くなって・・・うん、大丈夫、休んだからもう平気。・・・そうね、無関係ではないのだけど・・・ううん、響助君じゃないの。それとは別。・・・ここ? 学園警備隊の本部。・・・え、来るの?」
紺田と宮前氏を除く、その場にいる学園警備隊メンバー全員の顔が引きつった。僕はそれを、何事かと見回していた。
「古瀬智羽はここにいる人間にとって、天敵にも等しいのだよ。」
紺田が何故か薄笑いを浮かべながら、そう解説してくれた。なぜ天敵なのかまでは、言わなかった。
「うん、なんだか智羽が来ると面倒な事になりそうだから・・・うん、ごめんね。・・・うん・・・それなんだけど・・・うん、私は明日でもいいから・・・うん、別に昼でもいいの。ただ他の人が来ないようにしたかっただけだから・・・え、そうね。智羽がそういうなら・・・」
僕は黙って、毬音の会話を聞いていた。周りの人がみんなそうだった。視線は一点に集まっていて、それは気づいてみるとなかなか異様な光景だった。
「智羽と、話す事ある?」
そういって、毬音が電話機を差し出してきた。
「いや、特にない。・・・明日、会う約束になったんだろ?」
「そう。――もしもし、明日話すからいいって。・・・うん、横で聞いてたからわかったみたい。・・・じゃあ、明日ね。」
そして毬音は通話を切り、電話機を紺田に返した。
「10分23秒か・・・」
そう言った後、紺田は電話機をポケットにしまった。
「あの・・・智羽はここには来ませんので・・・・」
周り中の視線に気づいたのか、毬音は苦笑しながらそう言った。その言葉に、一同はほっとした表情を見せ、紺田は目を閉じてふっと笑った。
「響助君、一つお願いがあるの。」
毬音が、僕の方を向いてそう言ってきた。
「明日の事だろ? 大丈夫、時間あるから。」
「うん、ありがとう。それとね。明日・・・ここにいる誰かに付き添ってもらおうと思うの」
「え?」
「智羽は、そこにいる紺田君がいいだろうって言うんだけど」
「ほほう。」
「な、なぜに?!」
思わず声が上擦ってしまった。そして紺田は嬉しそうだった。
「本当はあまり他の人を入れたくはないの。でも、今日みたいな事があるといけないから・・・それならいっそ、学園警備隊の、信用できる人に付き添ってもらった方がいいと思って。」
「紺田は信用できん。」
僕はきっぱりと言い放った。
「何故だい? 僕のどこが信用できないと? それとも僕は、過去知らない間に君を裏切るような真似をしたのかな?」
そう言いながら、紺田は僕の顔を覗き込むように接近してきた。
「そういう事は無いけど・・・その、お前は言動が普通じゃないから」
「言動が普通でないものは人としても信用できない。君はそう言いたいのかね?」
「そういうわけじゃ・・・」
僕は返答に困って、救いを求めるように毬音の方を見た。毬音の顔は引き締まっていて、今の僕を助けてくれるという印象はなかった。
「他人に対する評価の立証に別の他人を当てにするのは、あまり感心しない事よ。」
そう、中橋長官から言葉が飛んできた。僕はただ、落ち込むしかなかった。これが学園警備隊のきつさという奴か、そう思った。
「それでは明日、よろしくお願いします。」
僕が落ち込んでいる間に、毬音は紺田に向かって頭を下げていた。
「うむ。しかし、私一人で良いのかね?」
「え?」
「私としては、そこにいる馬場諭紀子も連れて行く事を提案したいが・・・どうかね?」
毬音は、馬場の方を見た。暫しの沈黙の後、毬音は頷いて行程の意志を示した。馬場の方は何故という困惑の表情を浮かべており、僕としては今はむしろそちらの方に同感だった。
「まあ、そんな顔をするなって。これも任務だと思え」
「・・・はい。」
あまり納得しきったようではなかったが、それでも馬場は承諾した。
「僕にとっては任務ではないと思うのだが。」
「そうだな。任務と言うよりは、義務だ。君はもっといろいろな事を知る必要がある。」
椅子を引いて腰掛けながら、紺田はそう言った。彼の言わんとする意味が、僕にはいまいちわからなかった。君はわかるのか、そんな意志を持って、毬音の方を見た。
「明日。明日になればわかるから。」
毬音はそう答えた。
「ほう、そこにあるのは木いちご茶ですな。」
紺田が、毬音の手元にある湯飲みを覗き込みながら言った。
「宮前先輩、俺もお茶欲しいです。」
「君のは無いよ。」
宮前氏はずっと笑顔のままだった。
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